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生物多様性をどうやって守る?

1.その地域に固有の生態系を遺すこと

生態系の機能,人為的行動がどのように生態系に影響をおよぼすか,これについて十分に理解できていない.地域に固有の生態系を,「自然のままに」放置すれば望ましい状態が維持できるとは限らない.薪炭林は人手が加わって維持されてきた二次林であり「手つかずの自然」ではなく、いわば「手がついた自然」である。このような二次的自然の多くは産業文明の発展とともに今では放置され,かえってそこに生き残った希少種を絶滅に追い込む恐れがある(松田,2000).

 

人間が守るべきものは,「手付かず」の自然だけではない.程度の差こそあれ,地球上に人為を完全に免れている生態系はない.また,自然の恵みは人間の生活に不可欠である.逆にいえば自然にまったく手をつけずに我々は生活することができない.子孫に自然の恵み遺すには、「手のついた自然」も遺さないといけない.

多くの生態系は非定常である.多くの生態系は,局所的には自然の遷移と攪乱により,絶えず変化してきたはずである.固有性は,今日前にある姿だけでなく,その生態系のなりたちを含めて歴史的に考えるべきである(鷲谷・松田,1998).

 

2.説明責任と順応性

 

外来生物

外来生物とは

日本生態学会(2002)より、

外来生物とは、過去あるいは現在の自然分布域外に導入された種、亜種、変種などの分類群を指し、生存して繁殖することのできるあらゆる器官、配偶子、種子、卵、夢精的繁殖子を含む。そして、人間によって意図的もしくは非意図的に移入された外来生物が生態系、生物多様性などに被害をもたらす問題を外来生物問題と呼んでいる。外来生物問題は生息・生育環境の開発や分断、孤立化、乱獲・過剰採集・管理放棄などとともに、生物多様性を脅かす重要な課題の1つと認識されている。」

 

外来生物

2005年6月,外来生物の侵入による生態系への被害を防止することを目的とした「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(略称「外来生物法」,平成16年法律第78号)が施行され,生態系等に著しい被害をもたらすもの,もしくはその可能性が高いものを「特定外来生物」に指定し,輸入や利用を規制することが定められた.

 

a.「外来生物」と「外来種

外来種」とは,分類群の対象が原則として「種」の単位である一方,「外来生物」では,種に加えてより小さな分類群,あるいは遺伝子,地域個体群などをも含む広い概念として認識した方が妥当である。

国内・国外にかかわらず,現在の自然分布域外に導入されたあらゆる分類群や単位については,「外来生物」と呼ぶほうが適切である.

 

復元の生物学 その4

実験としての復元と順応的管理

復元とは、環境を積極的に改変することだ.よって,それは一種の実験とみなせる.

Young(2000)によると,

  • 保全生物学の論文は動物を扱ったものが多く,より記述的,あるいは論理的である.
  • 復元生態学の論文は植物を扱ったものが多く,より実験的である.

この比較は最近の復元生態学の特徴をうまくついていて、自然の復元には植生の再生が欠かせない.そして,植物は動物に比べて実験的な取り扱いがしやすいということだ.

 

Drayton & Primac (2000) では,8種の多年生草本を用いて,四つの方法で新しい野外個体群を定着させる実験を行い,どの方法が最も成績が良いか比較した.

成功率について

  • 野外に種子を蒔く < 芽生えや成熟個体を移植する
  • 芽生え < 成熟個体

となった.また,成熟個体を用いれば,確実に早く開花し種子をつけるが,種子から芽生えた個体はなかなか開花しない.野外に種子を蒔く前に土を掘り起こし,あらかじめ競争者を減らす方法では,芽生えはほとんど定着しなかった.

 この研究から,絶滅危惧植物の新しい個体群を野外に定着させることは,一般的に非常に難しく,それぞれの種子にうまく使える方法を開発するためには,多くの場所を使い,多くの種子や苗を使い,様々な手法を検討する必要がある.

 ゆえに,絶滅危惧植物の保全は,第一に現地での保全が優先となる.現在生育地でない場所への再導入は,種の存続をより確実にするための,補足的な措置にすぎないと結論づけた. 

 

つぶやき、ひとりごと

 生物を守りたいなんて、さんざん自然を壊し続けてきた人間のエゴと思うと、果たしてこれに生きがいを見出していいのか疑問に思うことがあります。けれども保全生態学という分野も随分発達して、保全の最前線の現場で働くスタッフや研究者が数多くいることを考えると、エゴであるなど関係なくとにかく取り組まなければ、取り組みたいとも思うのです。エゴではなく、取り組むべき理由があり、その理由もこれからしっかり勉強しなければいけません。

 

人間がこれまでにしてきたことが、地球上のある生物の活動の結果にすぎないと思い、成るように成るしかないとあきらめるのか。

それとも、目を向けて何かできることはないのか、生涯を通して役に立つことを何かできないか。

 

失われつつある自然を、見て見ぬふりをするのはあまりに切ない。便利で豊かな生活を手に入れて感覚が麻痺し、すっかり人間主体な目線になってしまっているようで、危機を感じます。

人間がここまで高度な文明を築き上げ、文化・経済など発展させたのは言うまでもなく母なる地球の恵みのおかげです。

 

少しでも、未来にこの地球の自然、生物の営みを残したいと思い、その素晴らしさを未来の人たちにも感じてほしいと思うのは、自分だけなのだろうか。

復元の生物学 その3

 

どのような植生を復元するか?

保全事業ではなく、復元事業が行われている場合、すでに本来の自然環境は大きく壊されている。都市環境がその例である。都市環境にその土地本来の植生を復元することは、どこまで可能なのであろうか?

 

  • 都市環境の中に、都市周辺に、森が少なからず残されている。また、開発が進んだ場所でも、土壌中のシードバンクが残されている可能性がある。

→これらの供給源に基づく、その土地本来の森林の復元は十分に可能である。

→森林再生事業は、「風土性の原則」にのっとって、その土地に自生する植物を使って行われるべきである。

 

  • 森林の復元に関しては、土地利用を放棄するだけで、やがて森が発達すると期待して良い。

ex. チェコスロバキアの植生遷移の研究より(Parch & Pysek, 2001)

ex. カリブ海プエルトリコ島の植生遷移より(Aideら,2000)

 

  • 人為的措置として、例えばシイ・カシ類のように分散力の小さい植物の苗を、近郊の林から採集した種子より育てて植える。

→復元までの時間を短縮するための、限定的な作業を行うのが妥当である。

ゆえに、これまでの公共事業のように大型の予算を短期間に投入するよりも、小規模の予算を長期にわたって投入する方が多くの場合に好ましい結果を生むと考えられる。

 

  • 一方で、絶滅危惧種の中には、農耕地、草原、雑木林など人間の農業活動により二次的な自然に生育するものが数少なくない。森を復元さえすればよいと考えるのは早計であり、復元すべき植生をを考えるためには、過去にどのような植生を失ってきたのかを知ることが必要である。

 

  • 恒川(2001)によれば、1850年から1985年の135年の間に、国土の都市的利用は3.53倍に増加しているが、森林や農地の面積はほとんど変化していない(図1)。減少が大きいのが、荒地と湿地である。

  •  

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  •  横張・栗田(2001)もまた、埼玉県比企丘陵での土地利用変化を分析し、柴地や茅場の消失が著しいことを指摘している。
  • 草原性の絶滅危惧種が集中する阿蘇地方では、採草地が植林に変わり、絶滅危惧植物の自生地が消失している。

→野焼きや採草によって草原を維持しても補助金は得られないが、植林をすれば補助金が支払われるという制度があるからである。これらの事実は、絶滅危惧植物が、草地や湿地に多いという、維管束レッドデータブック環境庁,2000)が明らかにした事実と符合する。

 

これらの点を踏まえると、自然再生事業において優先されるべきは、草地や、草地と湿地が隣接した水辺環境の復元なのである。

復元の生物学 その2

復元の三原則

保全と復元の生物学(2002)種生物学会編」の中でも、タイトルに「復元」がつくからには、この項の内容については結構重要でないかと個人的に思った。一般市民も含めてである。間違った認識で「〜〜の自然を取り戻そう!!」などど活動が行われたら、とんちんかんでめちゃくちゃな自然の再生・復元?が行われるのではないだろうか?

 

風土性の原則

「自然の復元・再生を計画するとき、我々が目標にすべきことは、その土地に生活し、その土地の環境に適応し、その土地の歴史とともに進化してきた、固有の生態系を復元することである。」

 

・種の分類は人間が決めたもので、生物多様性の一部を表現しているに過ぎない。

→これについては、本著を読んでから痛感したところである。種、種と捉え、そしてとらわれていたが、実際のところある生物を種だけでひとくくりにできるほど、生き物たちの営みは単純ではなかった!!

・同じ種とされても、地方によって異なる系統に分かれているのが一般的である。

・よって、守るべきは「種」ではなく、その土地に固有な系統なのである。

(これらの点から考えると、現在のトキの野生復帰事業に関して、果たしてどう捉えたらよいのだろう…?)

 

多様性の原則

「特定の種だけに着目した復元ではなく、その土地の歴史とともに進化してきた多様な種からなる生態系全体を復元する必要がある。」

相互依存の関係

・Loreau&Hector(2001)*は、進化生物学で使われるPriceの公式を応用して、群落内の植物種数と群落の生産量の関係を実験的に調べた結果を解析した。

・Priceの公式を利用して、競争の効果と共助の効果を分割すると、競争の効果は定まった傾向を示さないが、共助の効果については一貫して有意な傾向がみられた。すなわち、同じ場所に生育している植物どうしは相手の性質を利用して、生産力を高めていることが多い。

 

 自然再生事業において、このような相互依存関係を復元することが必要とされる。

 

*Loreau, M. & A. Hector. 2001.  Restoration biology: A population biology perspective. Restraion Ecology 5: 277-290.

 

変異性の原則

「種内の遺伝的変異が保たれるように、十分な注意を払う必要がある。」

 

Montalvoら(2001)*?は、復元事業の目標として、「集団がランドスケープ(地形や植生配置)の動的な変化を通じて長期間存続し、適応的な進化を続ける能力を保証するレベルまで、集団を復元すること」を挙げている。

 

つまり、その土地固有の系統からなる生物の集団が、将来の環境変化のもとで新しい進化の歴史を紡いでいく能力を保証することを復元の目標にあげている。

 

このような適応進化能力は、集団内の遺伝的な変位量によって左右され、したがって自然の復元にあたっては種内に変位性が保たれた生態系を目標にする必要がある。

 

*Using spontaneous succession forrestoration of human-disturbed habitats: Experiment from Central Europe. Ecological Engineering 17:55-62.

復元の生物学

失われた自然は元に戻せない

人間による自然破壊によって失われた自然、生態系、生物多様性を元の状態戻すことはできない。生物多様性は、歴史的な存在である。これまでの歴史の積み重ねによって、現在の生物多様性があると考えられる。そして、その歴史とは偶然に大きく作用される過程であり、再現できないものである。

 

しかし…

元の状態に戻すことはできないとしても、生育環境を復元することで、失われつつある種(およびその中に含まれる遺伝的変異)を存続させて、その地域に歴史的に住み着いた種の組み合わせ(群集)を可能な限り残していくことは可能である。

 

諫早湾の潮受堤防を開門して、干潟を復元してもすべての種は戻らない。まったく同じ干潟は復元されないが、以前の干潟に似た新しい干潟が再生するだろう。諫早湾の干潟の生態系については、後日勉強してまとめようと思います…

 

復元することが以前の姿を取り戻すわけではなく、そこに我々が新しい「歴史」をつくることになる。しかし、だからといって現状を野放しにして失われつつある種を絶滅させてしまっては、それは歴史を抹消させてしまう。それゆえ、復元の困難さを乗り越える手段を模索し、それを講じなければならない!!

 

人間の自然に対する影響力

人間の活動が自然に対して圧倒的な影響力をもっている以上、我々はその影響をコントロールする必要がある。

・自然再生事業について言えば、事業でやってよいこと、いけないこと

・どのような目標が達成されれば、その事業が成功したとみなすか?

・逆にどのような事態が生じれば、その事業は失敗となるのか?

これらに関する明確な指針や基準が必要である。そして、その指針や基準づくりに生態学、進化学など、種生物学関連分野の科学的知見が欠かせないということだ。

 

復元生態学(restoraion ecology)

 以上の記述のような認識から復元生態学という分野が急速に発展してきた。「Restoration Ecology」という雑誌が1992年から刊行されているらしい。近々入手できたら読みます。。